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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
しばらく尾行して行くと、恩田は街道をそれて、雑木林の中の細道へ曲がった。そのまばらな雑木林の遥か向こうに、星空をくぎって、一とむらの森のようなものがある。その中にチラチラとあかりが見える様子では、立木に囲まれた人家に違いない。恩田はあの原中の一軒家へ帰るのであろうか。
街道の常夜燈を遠ざかるにつれて、雑木林の中は、だんだん闇が濃くなって、その闇の中に黒い影を尾行するのは非常に困難であった。
だが、やがて雑木林を出はずれると、どうしたことか、つい今しがたまで、おぼろげながらも見分けられた恩田の影を、パッタリと見失ってしまった。まぎれやすい林の中では、ちゃんと尾行していたのに、闇とはいえ眼界のひらけた星空の下に出てから、突然彼の姿が消えてしまったというのは、実に異様な感じであった。
その辺は田や畑はなく、一面に荒れ果てた草むらになっていて、道らしい道もなく、夜露にぬれた枯草が気味わるく足にまとい、ともすれば水溜りに踏み込みそうで、歩くのも難儀であったが、神谷は、折角ここまで尾行した怪物を、このまま見捨てて帰るのも残り惜しく、星空にすかして、四方を見廻しながら、向こうの木立ちの中のあかりを目標に、おぼつかなく進んで行った。