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にんげんひょう

人間豹

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页

青空文庫

すると、この押入れの中にとじこめられている人物こそ、あの女に違いない。人間豹が誘拐した「よいとまけ」姿の文代さんに違いない。

明智はもうためらっていられなかった。彼はさいぜんもいう通り、愛妻を気づかうあまり、日頃の冷静を失っていたのだ。いきなり押入れの前に立ち寄ると、サッとその襖をひらいた。

すると、案の定、そこには手足を縛られ、猿ぐつわをはめられた一人の人間がころがっていた。だが、明智にとっても、おそらくは読者諸君にとっても、実に意外なことには、それは文代さんではなかった。女ではなくて男であった。しかも明智がよく知っている人物。そもそも彼をこの怪事件の渦中に引き入れる最初のきっかけとなった人物、読者はむろん記憶されているであろう。それはかつての犠牲者レビュー・ガール江川蘭子の恋人、神谷青年のみじめな姿であったのだ。

さすがの明智も、まったく予期しなかった人物との、突拍子もない再会に、愕然としないではいられなかった。

「アッ、君は」

神谷君じゃないかと言おうとしたのだ。だが、皆まで言う暇はなかった。

その時、縁側の障子の蔭に身を潜めていた男が、小豆色のジャケツにカーキ・ズボンの拳闘選手みたいな大男が、すばやく明智の背後に忍び寄って、手にした棍棒を勢いこめて振りおろした。