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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

吉川英治『剣の四君子・日本名婦伝』。同一底本的分册已合并为一书。收入:剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 页

青空文庫

そして奥まった仮屋の一室に聞える人々の気配をそれと察して、両手をついて控えていた。――石舟斎、五郎右衛門、宗矩、兵庫という順に。

つかつかと奥から跫音が渡って来た。簀子縁から降りて、床几を持てとその人はあたりの者にいいつけている。それが家康であった。

「はっ。これへ」

と、近侍が彼のみへ、一つの床几を置くと、家康はなお、腰をおろさず、

「老体へもお席をさしあげい」

と、云った。

近侍は恐縮して、あわててもう一つの床几を、石舟斎の方にすえた。石舟斎は、

「畏れ多いお扱い」

と、固辞して、容易にそれへ着かなかった。

彼は、自分を迎える家康の厚い好遇に、年のせいか、涙もろい瞼の熱きをまず覚えた。六十八歳の今日まで、世が彼に遇して来たものは、白眼か、策謀か、利用か、酷薄か、いずれにしてもかくの如く温かなものには絶えて遇った例がない。

家康の心を酌むならば。

室には格式のうるさい僧侶や大名などもいるので、無名の一郷族を、座へ招じることはできないし、と云って、長政を使いとして、自身から迎えた客なので、礼も執らねばならない。――そう考えて自分から室を下り、石舟斎にも床几をすすめて、主客対等に話そうとする心もちが、云わでも、石舟斎にはよく酌み取れたのである。