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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
吉川英治『剣の四君子・日本名婦伝』。同一底本的分册已合并为一书。收入:剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 页
日本名婦伝
一
わしは、正直、途方にくれた。忠興、そちはいずれに組すか」
こう父の云ったのに対して、忠興は、さっきから二度までも、
「何の御斟酌ですか。主君を殺した逆臣に組する弓矢は忠興にはありません。――妻の処置は、良人たるわたくしの胸でします。そして、信長公の御無念をはらさんとする何人とも力を協せて、光秀を討たずにはおきません」
そう明確に答えを繰返していたのであった。
「よう云われた。父とても、同じ考えである」
藤孝は、仏間にはいって、信長の霊に誓の仏燈を捧げ、その日に、黒髪を剃ろしてしまった。
忠興は、重臣をあつめて、父子の決意を告げ、それが終ると、初めて朝出たままの居間へ帰ったが、時刻はもう夕方に近いほどだった。朝食も午餐も、忘れ果てていたのである。
三
さすがに女ばかりの奥の丸にも、もう京都の空の煙が、日本中を変革している大事変だったことが知れ渡っていた。
――が、ここでは。
逆臣とか、大悪人とか、光秀とかいう声は、ひそとも聞えないほど、慎まれていた。
つい四年前に輿入れしたばかりの、若い美しい忠興夫人は、その明智家の二女であり、大逆人の光秀のむすめであることを、お下婢の女童までが、知らぬはないからであった。