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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

吉川英治『剣の四君子・日本名婦伝』。同一底本的分册已合并为一书。收入:剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、剣の四君子、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝、日本名婦伝。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,635 字 · 306 页

青空文庫

四

一

思い出もいまは古い、小紋の小切れやら、更紗の襤褸や、赤い縮緬の片袖など、貼板の面には、彼女の丹精が、細々と綴られて、それは貼るそばから、春の陽に乾きかけていた。

「この小紋も、はや二十年ほどになろう。良人の十内様が、江戸詰のおもどりに、長の留守居の褒美ぞと、お土産に買うて下されたもの。性の抜けるほど、よう着た上、解いて頭巾になおしたり、お母様の胴着にもしたり……」

彼女は何かを楽しむように、貼り交ぜた小切れの数々をながめていた。十九の頃、いまの良人の十内に嫁いだときの物すらある。小野寺家の新妻として、まだ客にも羞恥うていた時分の自分のすがたなど、思い出されて来る。

「おや、お母様。ほほほほ、お縁側から落ちるといけませんよ。御退屈なさいましたか」

庭さきから、ふと、陽あたりのよい小書院の縁をふり顧って、丹女はあわてて、そこにいる老母のそばへ、起しに行った。

良人の老母は、ことしもう九十であった。――嫁よ、嫁よ、と呼ばれている丹女ですら、十内と添ってから三十余年、五十をすこし越えていた。

(わたくしが貼物をしているあいだ、ここのお蒲団にすわって、お花見をしておいで遊ばせ。