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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

「アア、煉瓦塀の空家なら、この墓地を突き切った向側に、一軒だけポッツリ建っているアレのことでしょう。真直ぐにお出でなさればじき分りますよ。尤も暗いには暗うございますけれど」

おかみさんが、丁寧に教えてくれた。

相川青年は半信半疑でいた空家が実在のものだと分ると、何かしらハッとして心臓の辺が妙な感じであった。

「その家は長く空いているのですか」

「エエ、もうずっと。私共がここへ引越して来る以前から、草茫々の空家なんですよ。何だか存じませんけど、変な噂が立っている位なのでございますよ」

「変な噂って、化物屋敷とでもいう様な?」

「エエ、まあね。ホホホホホホホ」

おかみさんは言葉を濁して、妙な笑い方をした。

(愈々そうだ。墓地と化物屋敷と人殺しと、なんてまあ巧みにも組合せたことだろう。サア守、お前はシッカリしなけりゃいけないぞ)

彼はこれからの冒険を考えると、何となく恐ろしくもあったけれど、恐ろしければ恐ろしい丈け、彼の猟奇心はこよなき満足を感じた。

煉瓦塀の空家までは、そこから墓地を通りぬけて二丁余りの距離であった。

彼は用心深く、他人が見たら、彼自身が黒い物の怪の様に感じられる事だろうと思いながら、態とその物の怪の歩き方をして、破れた煉瓦塀の前にたどりついた。