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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

矢面に立った紳士は、少なからず迷惑そうであったが、つい立去るしおを失って、そのまま聞き役を勤めた。

「僕がなぜあんなに熱心にこの人形を見ていたか。その理由が分りますか。僕の顔をごらんなさい。ひどく青ざめてやしませんか。実を云うとね、僕は今、ブルブル震え出す程怖いのですよ。我ながら余り恐ろしい空想にゾッと総毛立っているのですよ」

怪人物は、怪談でも始める様に、話し出した。夕暗に眼鏡ばかりが、白っぽく光って見える。

「僕はね、このショウ・ウィンドウの知合の人形が、消えてなくなったことと、今日この附近に起った妙な事件とを結びつけて考えて見たのですよ。分りますか。僕がどんなに怖がっているか。あなたは平気ですね。今に平気でいられなくなりますよ」

「今日この附近に起った事件というのは?」

紳士がてれ隠しの様に口をはさむ。

「きっと旭湯の煙突の事件だぜ」

「それからマン・ホールの事件も」

銀座ボーイの囁き交すのが聞えた。

「そうです。その事件です。皆さんはあの事件の全体を知っていますか。恐らく御存じありますまい。

僕は目撃した訳ではありませんが、噂を尋ね廻って、すっかり知っています。