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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

「守さん、あなた小説家を沢山ご存知ですわね。今出て行った青眼鏡の人、小説家じゃありません?」

京子も声をひそめて、こんなことを云った。

「イイエ、そうじゃないでしょう。あんなきざな眼鏡をかけて、古ぼけたモーニングなんか着ている小説家なんてありませんよ」相川青年が答えた通り、その二人連れは、政党の下っぱか所謂会社ゴロという様な人種以上には見えなかった。

「そうでしょうか。でもおかしいわ。あれが小説の筋でないとすると……」

「あれって何です。何が小説の筋なんです」

相川青年は、もどかし相に、併しやっぱり囁き声で促した。

「本当に恐ろしい事なんです。人を殺す話なのです。短刀で一寸だめし五分だめし……ですって」

京子はゾーッと総毛立っている様な、寒々した表情であった。

「先生、夢でもごらんなすったのじゃありませんか。誰もそんな恐ろしい話してやいないじゃありませんか。こんな大勢人のいる場所で、……」

珠子が気違いをでもあやす様に云った。そういう彼女自身の美しい顔も、少し青ざめて見えた。

「イイエ、誰にも聞取れない様な、低い声で囁き合っていたのです。あなた方は、さっきの青眼鏡の二人連れが、給仕のすきを見て、ヒソヒソ話をしていたのを見なかったのですか」