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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

二

「折角、山へ上って来たのに」

「そうだ、無事に帰しては、勿体ない」

お甲はしきりに眼をもって梅軒の決心をけしかける。梅軒はだが容易に肚がきまらないらしい。眸の奥でぎらぎらと何か思慮を焦いている。

恐い眼である。

しばらくして、

「藤次はいるか」

「え。祭の酒に酔って、宵から店で寝ておりますが」

「じゃあ、起しておけ」

「あなたは」

「何せい、おれは勤務のある体だ。――御宝蔵の見廻りや用事を済まして、後から行くとしよう」

「じゃあ、宅の方へ」

「む。おぬしの店へ」

赤い庭燎のゆらぐ闇へ、二人の影はまた、別れ別れに消えて行った。

二

山門を出ると、お甲の足は、小走りになった。

門前町は二、三十戸ある。

多くは、土産物屋と、休み茶屋であった。

たまたま、煮物や酒のにおいの中に人声の賑やかな小屋もある。

彼女のはいった家も、そうしたふうの一軒で、土間には腰掛が並べてあり、軒先には「御休処」としてある。

「うちの人は」

帰るとすぐ、彼女は、床几に居眠っていた雇人の小女へ訊いた。

「寝てるのかい」

叱られたと思って、小女はあわてて、何度もかぶりを振った。

「おまえじゃないよ。うちの人のことを訊くのだよ」