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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

六

立身のためだ、名を揚げるためだ、故郷へ錦を飾るためだ、そのほか人間と生れた効をあらゆる点で満足させるためだ。そのためには、今の時代では何といっても兵法に優れることが出世の捷径である。幸いにも、この時代に自分は剣にかけては天稟の質をもって生れて来た――と、こう彼は考えている。自尊心を持っている。また聡明なる処世の歩みとして歩んでいる。

だから、彼の一進一退は、すべてこの目的と駈引から、割り出されていた。そうした彼の眼から見ると、ここの主の岩間角兵衛などは年こそ自分よりはずっと上だが、

(甘いものだ)

と、思わざるを得ないのであった。

――いつか小次郎は、そうした夢を抱いて、寝てしまった。月は畳の目を一尺もうごいたが、まだ醒めなかった。窓の女竹に絶えまなく涼風が戦いで、昼の暑さから解かれた肉体は、打たれても醒める気色はなかった。

――すると、その頃まで、蚊の多い崖の陰にかくれていた一つの人影は、

(よし!)

と、頃を見定めたように、燈のない家の軒端まで、蟇の這うように忍び寄って来た。

六

凛々しく見拵えした武士であった。――夕刻、坂下の花屋の老爺が挙動を怪しんで、寺の裏山へ見送ったという――あの若い武士がこの男であったのではあるまいか。