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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

七

どぶり……どぶり……

舷をたたく川口の静かな夜波に胸を衝かれて、あふれ出る涙をどうしようもなかった。

さはいえ。

彼女はこよいの薄縁を、城太郎のように、ばばのように、遣る方なき残念とはしなかった。

(こよい会えなければ他の日に、ここで語れねばまたよその渚で)

と、独りしている十年の誓いに少しも変りはない。

むしろ武蔵様が、降りて途中の土を踏まない気持に、

(さもあろう)

とすら、同じ心が持てるのであった。

聞説。――巌流佐々木小次郎という者は、今では中国九州に亘って人もゆるす達人、その道の覇者。

武蔵を迎えて、雌雄を決しようというからには、人のみか、彼自身、必勝の信念ができているに違いはない。

いかに武蔵でも、こんどの九州行は、決して平安な浪路ではないであろう。――お通は自分を怨む前に、そう思う。――そう思ってはまた、とめどない涙の中に沈むのだった。

「……あの船に、あの船に武蔵様は」

今、松原の洲先から西へゆく帆影を見まもりながら、滂沱と流るる涙に顔をまかせ、彼女は小舟の縁に身も世もなかった。

――ふと。

彼女は涙の底から、彼女自身も気づかない烈しい力を呼び起していた。