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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

廊下をさがって来た泰三は、どこで曲り角をまちがえたものか、いくらいっても供待へ出ない。彼はまだ無役なので、三の口というところからあがったのだが、だいたい目印を頭へいれておいたのがうやむやになってしまい、同じ廊下を何回も通ったのだろう。

「なあんだあいつは、またあんなとこを歩いてるぞ」

などと云うのが聞えた。そのくらいならいいが、或る部屋にいた人間は、げらげら笑いをして、こっちを指さして、「おい見ろ見ろ、あそこに大きな迷子がいるぞ、誰か親を捜して来てやらないか」

大きな声でこう云った。泰三はこのときはむかむかっときて、べらぼうめなにをぬかすとどなり返した。

「こんなちッぽけな田舎の小城がなんだ、江戸へいってみやがれ、上屋敷の御殿の廊下なんぞ延長一里十二町二十一間もあるんだ、角々に立番がいて道を教えるくらいなんだぞ、こんな鼻の閊えるような城の中で頼まれたって迷子になれるかッてんだ、ざまアみやがれ」

ぽんぽんと巻舌でやッつけた。そしてあっけにとられているのをしり眼に、ずんずん大股に歩いていったが、……それからどうしたか、供をして来た若党の弥平は、日の昏れるまで供待で欠伸をしていた。