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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
二の四
「その一言気にいった」
孫九郎の右側にいた男が、大きな声でこう喚いて、そして続けて喚いた。
「問答はやめて勝負をしよう、来い」
「そうこなくっちゃあいけねえ、男はあっさりするもんだ」泰三はにこにこと眼尻を下げて笑った。
「――だがおれはちょいと使いを済まして来る、なにひとっ走りだ、あっというまに帰って来るから」
「卑怯者、この期に及んで逃げる気か」
「そいつだけは心配するな、おれに限ってそんな勿体ないことはしないから、それだけは大丈夫だから待ってて呉れ、そこの原っぱだぞ、すぐ戻って来るからな」
そして泰三は満信家のほうへと喜び勇んで走っていった。
二の四
その夜の夕餉のとき、右衛門は頻りと泰三のほうへ眼をやった。泰三はいつもの席よりずっと下座へ寄って膳を置き、なにやら燈火を避けるような姿勢で、いやにこそこそと喰べている。……どうもおかしい、脇見もしないし話もしない、茶碗の中へ顔を伏せるようにして、肱を横へ張って、ぜんたいがなにか隠し立てをしているようなぐあいである。
「泰三、おまえどうかしたのか」
あまり腑におちないので、右衛門はとうとう堪りかねてそうきいた。