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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

一の四

た箱でございますが」

こう饒舌りながら、彼は箱を前へひき寄せ、その包紙とのしを指で示して続けた。

「ごらん下さい、このとおり水引もかかっております、決して嘘偽りは申しません、それは信用して頂きたいと思うのです」

「そんなことは信ずるも信じないも……そんな土産物などは家の者に渡せばいいではないか」

一の四

「それがいちおうお眼にかけませんとうろんに思われるかもしれませんので、と申しますのが、実はこの箱の中はからっぽなので、ごらん下さい……このとおりなんです」

泰三は水引をこき外して、蓋を取って中を見せた。なるほど中はからっぽである、右衛門はかっとのぼせてきた。だがもしかするとなにかの洒落か、変った手品でも披露するのかもしれない。いきなり怒っていいかどうかわからないので、「からっぽはわかった、しかしそれがどうしたのだ」

「そこが云いにくいところなのですが、ほかならぬ山治のおじ上だから申上げるのですが、その、貴方は浅草海苔とか栗饅頭とかまたかき餅など、そんなつまらない物にみれんはお持ちにならないでしょうな」

右衛門は黙ってこっちを睨んでいる、泰三はできるだけ愛嬌よく笑ってみせ、空き箱の内部を手でさっと撫でながら云った。