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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

三の三

三の三

世間の批評とか人の鑑識などというものは実に軽薄なものである。泰三が勤めだしてから二十日と経たないうちに、泰助の評判がめきめき善くなってきた。昼の蝋燭だの石仏だのと嘲笑した人々が、今では彼を認め、彼の人格を賞揚し始めさえした。

「やはりなんですな、同じ血筋といっても兄は兄、比べてみると格の違いというものは争えないものですな」

「沈着冷静、実にあの若さにしては珍しい老成ぶりです、能ある鷹は爪を隠す、石仏などと云われても馬耳東風と聞きながしていたところなど、実にあの若さにしては稀な風格と云うべきでしょう」

「私はあの人は禅学をやったと思うですな、それも曹洞の痛棒に敲きぬかれて、大悟の境を通過した人だと思うのですな」

こんなような評が、城の内外で頻りにとり交わされた。

だが云うまでもなく、この世評の変貌には由来するところの原因がある。それは泰三そのものであった、初め勘定奉行所の仕切方に勤めた彼は、十日めに納戸方へ転勤になり、そこから書院番、次に作事奉行書記と、三十日ばかりのあいだに四回も役目を転々した。……もちろん彼が希望したわけでもなし、また城代重臣が好んで命じたわけでもない。