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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
一の二
「女の仕合せってそういうものですわねえ」
「津留さん、なんですそんな」
母親が叱ると、こんどは母の口まねをする。
「母さんは一日として泣かない日はないくらいでしたよ」
これもたいへんうまい、しめっぽい声といい口調といい母親そっくりである。そして、呆れている母と姉に向って、ずけずけと遠慮なく云うのである。
「女の人ってみんなへんてこよ、母さまも谷川のおばさまも幸田の奥さまも、みんな嫁に来てからどんなに辛かったとか悲しかったとか、日も夜も泣きの涙で送ったとかって、世界じゅうの不幸を独りで背負ったような顔をなさるかと思うと、こんどは旦那さまの自慢を始めて、およそ自分くらい幸福な妻はないなんて、まるっきり反対なことを平気で仰しゃるんですものね」
「あら、母さんがいつそんなこと云いました」
一の二
「いつでもよ、例えばこのあいだ」
津留はこういうときまず舌に湿りをくれて精気溌溂として、巧みにこわいろを使い分けながら極めて能弁に連打をあびせるのである。
「このあいだ倉重の奥さまがいらしったとき、この頃は主人がすっかり年寄じみてしまって物足りませんわ、昔は若くもあったでしょうけれど、やっぱり愛情も激しかったんですわね、つまらないような事でも、すぐむきになって、それこそまっ赤になって怒って、がんがんがんッて雷を鳴らすんですの、それが