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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

三の四

口惜しまぎれに、母と姉の感傷癖を利用したまでのはなしである。口からでまかせに、それこそ舌の動くがままに弁じたてたのであるが……ところが、自分の部屋へ帰って、小机の前に坐ったとたん、津留はわれ知らずあっと声をあげた。

「――ああそうだ、……そうだわ」

こう呟いて、こんどは眼をつむり、両手を膝に置いて、かなり長いこと沈思黙考という態であったが、やがてその眼から、――こんどは嘘いつわりなしの、――涙がぽろぽろと頬を伝わって落ちた。

「――それに違いないわ、慥かに、……自分では気がつかなかったけれど、心ではちゃんと感じていたのよ、だから自然と口に出たんだわ、自然と、……でなくって泰三さんがあんなにばかげたような粗忽をするわけがないじゃないの、……そうだったんだわ、今こそはっきりわかったわ」

津留は衝動的に両手で顔を掩い、お可哀そうな泰三さん、と心のなかで呼びかけながら声を忍ばせて啜り泣くのであった。

三の四

津留がこのように活眼でみぬいているにも拘らず、泰三は依然として自由濶達にとびまわっていた。彼は城の中でも外でも、殆んど全藩中の人と知り合った。頻りとお台所へいって料理人と話しこむし、庭番と共同で菜園の堆肥つくりもやるし、足軽長屋の塀もなおすし、またどこかの子供にせがまれてどこかの邸の柿の木へ登って柿の実をしこたま