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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

一の三

そして泰三は到着したのであるが、その当日、右衛門は役所でちょっとした事があって、精神的に幾らか昂奮していた。たいした問題ではない。例の「一連の人々」が、泰助のばあいと同じように、こんどもまた泰三が「検査官」として来るのではないかと疑い、右衛門に向ってさぐりをいれるようなことを云ったのである。それがいかにも狡猾で知ったふうな態度だったから、こちらはよほどやりきれない気持になった。

――なんという卑しいやつらだ。

こう思ったくらいではないが、そこは身分や年齢からして、さりげなくあしらっておいた。そうして個人的には少なからず不愉快になって帰って来たわけだったが、自宅の門をはいって、玄関へかかろうとしたとき、「危ないッ危ないッ、さがれッ」

いきなり頭の上からどなられた。

一の三

そんなことは未曽有であるし、なにしろ余りに突然である。頭の上のほうからずぬけた高声で絶叫され、われ知らず右衛門は脇のほうへ身を避けた。それと同時に、がらがらがらッとなにか落ちて来て、殆んど右衛門とすれすれの処でなにかが砕け飛んだ。

――金吾だな。

右衛門は瞬間そう思ったという、そして刀の柄に手をかけながら上を見た。