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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

でですね、小ちゃな奴凧がそこの地面の上にのたばったわけです」

「おまえがそれをあげたんだろう」右衛門はついに喚きだした、「――そのへたばった凧を、その小っぽけな奴凧をその子供の代りにあげたんだろう」

「貴方は見ていたようなことを云いますが」

「うるさい、黙れうるさい」右衛門はここでまた拳骨で眉間を押え、右の足で廊下を叩きながら叫んだ、「――なにがひくにひかれぬだ、武士の面目と凧とどんな関係がある、殿までひきあいに出す必要がどこにあるんだ、おれはおまえに満信へ使いを頼んだ、おれは返辞を待っていた、ところがきさまは途中でひっかかって、まるで阿呆のように凧をあげていた、凧を、凧を、凧を」

「しかし待って下さい」泰三は少しずつ脇のほうへ退却しながら、「――私はふと使いのことに気がついたんです、これはいけない頼まれたことがある、こうしているばあいではないと、しかし気がついてみるとひどく腹が減ってる、非常な空腹なんで、まさか貴方がそんなにむきに怒ろうとは思いませんから、ちょいと午飯を」

「おれは上訴する、江戸の殿へ、おれは」

「いってまいります、すぐです」泰三は横っ跳びにうしろの襖をあけた、「――ほんのちょっとのまです、どうか暫く」