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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

「泰助さまの評判がとてもよくなったそうですよ、お父さまが仰しゃってたけれど」

「その筈ですわ、だって本当にお立派ないい方なのですもの」

姉の千賀と母親とが、そんなふうに話すのを、津留はしばしば口惜しい思いで聞いた。

「ひと頃あんなに悪く云ってた人たちが、まるで手の平を返すように褒めるんですって、将来は典木家を再興して、元どおり江戸家老にお成りなさるだろうって、御重職のあいだにもそんな噂があるそうよ」

「人にそれだけの値打があれは、いつかはわからずにはいませんわ、あの方はそれだけの値打があるのですもの、それがようやく皆さまにわかってきただけですわ」

「どうしてだか云ってあげましょうか」

津留がいまいましくなって憎らしそうに顎をつき出しながら云った。

「どうして泰助殿の評判がよくなったか、石仏氏がなぜ急に褒められだしたか、そのわけを云ってあげましょうか、へん、お母さまもお姉上さまもなんにも知らないで、いい気なものでございますわア」

「仰しゃいよ」珍しく姉がそう応じた、「――わたくしたちの知らないわけがあるのなら、いいから云ってごらんなさいな」

「それはね、泰三さんのおかげなのよ」