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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
になってしまうじゃありませんか」
「そんなことはありませんわ」津留は涙をぽろぽろこぼしながら叫んだ、「泰三さんの粗忽はお兄さまをひきたてるための作り粗忽なんですもの、御祝言の席でそんなことをなさる筈は絶対にありませんわ、ええ絶対に」
「それは津留さんがそう思うだけですわ、津留さんお一人が」と姉は化粧した美しい顔を鏡に写して見ながら、おちつきはらって、やさしい声音でそう云った、「――作り粗忽だなんて、どこにも証拠はないじゃございませんの、わたくしどうしたって信じられませんわ」
「信じられませんわ、信じられませんわア」涙をこぼしながら津留は姉の口まねをした。
「信じられなければ信じなくともよくってよ、泰三さんの粗忽がもしか本物だったにしろ、二人っきりの御兄弟じゃありませんか、御祝言といえば一生に一度、なにもそんなにけちけちしないで毀せるったけ毀さしてあげたらいいじゃないの、まさか天地まで粉々にするわけでもないでしょ、えへん」
「お望みなら津留さんのときにさせておあげになればいいわ、ねえお母さま」
「ええそうするわ、もちろんよ」津留は昂然と宣言した、「――わたくしたちのお式のときには思う存分そうさせてさしあげるわ」