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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

の処理については、藩譜にも、はっきりした記述がない。おそらく長い年月のあいだに、そこは宜しく片づいたものであろうし、べっしてわれわれが心配すべき筋合でもないだろう。……この騒ぎがいちおう鎮静したのは五月のことであるが、その中旬の或る日、右衛門は泰三を呼んで、

「実は相談があるのだが」と、ひどくまじめに云いかけた、「――ざっくばらんに云ってしまうが、典木の家は立派に再興したことでもあるし、ひとつこの辺で、おまえにこの山治の家を継いで貰いたいのだが、どうだろう」

「私にですか、私にこの山治家を」

「つまり婿養子になって貰いたいわけだ」右衛門はここで渋いような顔をした、「――これはわしの意見というより、娘がそう望むので、どうしてもそうしたいとせがむので、まあ、やむを得ず相談するわけなんだが」

「それは困ります、それは困るんです」

泰三もまじめに首を振った。

「なぜかというと、ばあいがばあいですから申上げますが、私には約束した者がありまして、どうもそれを反故にするというわけにはまいらないのです」

彼がそう云いかけたとき、襖の向うでわっと女の泣く声が起こり、ばたばたと走り去る足音が聞えた。