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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

話しぶりにも幾ぶん亭主という心もちが加わって、丁寧なうちになお親しみをも示している。それは臣下との語らいというよりは茶友を迎えているすがただった。

「いや、どうも、それがです……」

と、秀吉もここでは暢々とくつろいで、

「ふと、致してみたり、また、とんと忘れ果てたり。また茶というものと私とがいっこう一つになりません。たまたま、服むにしても、相かわらず不精なことのみしておりまして、かように清々とお茶室のうちでいただくことなどは」

相客の五郎左衛門長秀がわらい出して、

「いやいや、筑前どのには、それが結構茶の精神に適っているものでしょう。無法の法です。無規格の中の大規格です。ちょっと寸法にははまらないかのように見うけられるが、御辺には御辺の寸法というものをちゃんとお備えになっておられる。むしろお羨ましいほどである」

「これはたいへんなお褒めにあずかりましたな。茶の精神とやらも、いっかどまだ弁えんので、折角のお褒めも、どこをどう買っていただいたのやら分らぬが」

「その茫漠としているところですな。たとえば春霞のたなびいている天地のようなお寛さ。そのお懐のうちには海もたたえ山もそびえ野も広々とあるかのようで――また、ないかのようでもある――といったような茫漠さが」