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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

(彼らを、見殺しにしては)

と、忍びない情を心の底にもっていたにちがいない。

しかし、秀吉は、いま、

「そういたせ」

と、信長から指令をうけると、否やをいわず、

「承知いたしました」

と、即答して退った。

そして独り、私情を圧し伏せるために、自問自答しつつ中国へ引っ返して行った。

「――勝ちがたきは避け、勝ちやすきに勝つ。……これは兵法の当然だ。手段のためには、信義も何もないようだが、本来、われわれはもっと偉きな終局の目標へ向って戦っている筈である。私情の忍びがたきものも、そのためには、忍ばなければなるまい」――と。

で、秀吉は、高倉山へ帰陣すると、丹羽、滝川、明智などの諸将を集め、

「御意向は、こうあった」

と、ありのまま、信長の方針を告げて、即刻、ここの陣所を引き払って、信忠の軍に合流するよう命令した。

丹羽隊、滝川隊などを殿軍にのこして、まず秀吉や荒木村重の本軍から後退を開始した。

「――重茲はまだ帰らぬか」

彼は、高倉山を去る間際まで、何度もそれを訊ねていた。

秀吉の胸をよく知っている竹中半兵衛は、共にうしろ髪をひかれるように、

「まだ、戻りませぬが?」