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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

」

「ここで結構です。」

小女が心得て手早く座蒲団と煙草盆。

「御免下さい。」と外套を抱えたまま、ガチリと佩剣の腰を捌いて、框の板に背後むきに、かしッと長靴の腰を掛ける、と帽子を脱いで仰向けにストンと置いて、

「何は、ちょいちょい来らるるかね。」と髯を捻る。

「誰方……でございますか。」

「何は、大学の国手は?」

「さっぱり……」と目が働いて、頬が緊る、お孝は注意深い色である。

「全然お見えにならんですかね。」

「いいえ、時……偶。」と、膝で二つばかり掌を軽く合せる。

「今度お逢いでしたら、貴方から、私に、託を一つ頼まれて下さらんじゃろうかね。」

「はあ、お目に懸りました節は。――ですが、いつまたお見えになりますか。」と瞻らるる目を外して言う。

「別に急ぐという件ではないです。――今名刺を上げます。で、私が職務としてではない。一個人として、私一人として、じゃね、……非常に先達ては失敬した、詫をします、と貴方からよう言うて貰いたいのじゃ。実はそれを頼みとうて、今日は私用のみで出向いて来たです。……いやいや一石橋の事のみではないです。

実は、今週の金曜日、一昨日でした。私は非番だもんで、医科大学へ葛木さんを訪問したです。