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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

十九

」

と取っても附けない気振をしながら、

「で、晋三の蔵の字は?……いや、名刺をお持ちじゃろう、と考えるですがね。」

「確か……有りました。」

その時、角燈をぱっと見せると、その手で片手の手袋を取って、目前へ、ずい、と掌。目潰もくわせる構。で、葛木という男は、ハッと一足さがった。

「差上げますので?」

「何、拝見をしますので、はあ、ああ。」

十九

巡査は、持替えた角燈に、頬骨高く半面暗く、葛木の名刺を指の股に挟んで、

「これは非常に皺になっとる名刺じゃねえ。」

「つい突込んで置いたもんですから。」と袖の下に、葛木はその名刺入を持っている。

「ああ、非常に大事の物と見えるですね。」

巡査は鼻の先でニヤリと薄笑。

この意味が受取れなくって、

「ええ?」と云う。

「深くその、嚢底に秘して置くですね。」

「何、そういう次第ではないんです。いけ粗雑なんです。」

「粗略に扱うですか。わざとですかね、名刺を。」

「わざと、と云うのじゃありません。皮肉じゃありませんか。」

「あえてそうでないです。が、貴下の言語が前後不揃であるからじゃね。」

「何が不揃です。」とちょっと忙込む。

「お黙りなさい、」