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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
六十一
「これが有るで、俺、この頃では、一日二日怠けて飯食わねえ事あるですけれども、身体が弱らん。かえって、ほかほか温だね。取っちゃ食い、取っちゃ食いするだ。が、あとからあとから湧くですわい。二十間の毛皮を縫包みにしておるで、形のある中は虫が湧くですだ。」
葛木は面を背けて、はっと吐こうとした唾を、清葉の口紅と、雛の思出、控えて手巾を口に当てた。
――やがて、お孝が狂気になったも、一つはこの虫が因である――
六十一
「貴下、何をしておらるるかね。」
靴を忍んで唐突に、ずかずかと寄って声を沈めたのは巡査であった。
「ちょっと談話を。」
葛木はその時まで、虫に背けた面を向ける。と、星に照らして、
「や、国手ですか。」
「おお貴官で。」
「この橋は妙な橋ですな。」
と莞爾しながら、角燈を衝と向ける。そこに背後むきに蹲んだやつ。
「こちらは、」
「旧友です。ふとここで出会ったんです。」
「お話しなさい……失礼しました。」
「ああ、貴官、いつぞやは――一度、更めてお目に掛りたいと思っています。」
「難有う。機会を待ちます。」
と銀河を仰ぎ、佩剣の秋蕭殺として、鵲のごとく黒く行く。橋冷やかに、水が白い。