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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

二十六

」

「ええそうよ、……違いますとも。……清葉さんと違うのはね、今時分から一人じゃ貴方を帰さない事なのよ。」

「お孝さん。」

「葛木さん、もう遅いわ。……電車も無し……巡査に咎められたりなんかして、こんな時はつけが悪い、山の手の夜道だもの、無理をすると追剥が出ますよ。」

「もっとも、直ぐにも、挨拶もしたいんだけれど、遅い、ね、何しろ遅いからどこと云って……私は働が無いのでね。」

「附いてるのが私です。――箱を出たお嬢さんだわ。お座敷はどこにでも。……ちょっと……一所にいらっしゃいな。」

と取って引いた外套の脇を離すと、トンと突いて、ひらりと退くや、不意に蹌踉めく葛木を、すっと立って、莞爾見て、

「その時、きっと御挨拶なさいまし。ほほほ。」

と花やかなものである。

「姉さん。」と抱附くように腰にひったり、唐突に駆寄ったは、若い妓の派手な態度――当時一本になりたてだった、お孝が秘蔵のお千世なのである。

「まあ、千世ちゃんか、……ああ、吃驚するじゃないか、ねえ。」

二十六

「だって、姉さん。」

「姉さんじゃないよ、……唐突に何だねえ、お前、今しがた河岸の角から駆出したじゃないか。