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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

十二

金気蕭条としてたちまち至る殺風景。やけでお若は浮気をする。紐がつく、蔦が搦む、蜘蛛の巣が軒にかかる、旦那は暴れる、お若は遁げる。追掛廻して殺すと云う。

手切話しに、家を分けて、間夫をたてひく三度の勤めに、消え際がまた栄えた、おなじ屋号の御神燈を掛けたのが、すなわちこの露地で、稲葉屋の前がそれである。

お若と云うのは、一輪の冬牡丹を凩に咲かす間もなく、その家で煩いついて、いわゆる労症の、果はどっと寝て、枕も上らないようになると、件の間夫の妹と称する、いずくんぞ知らん品川の女郎上り。女で食う色男を一度食わせたことのある、台の鮨のくされ縁が、手扶けの介抱と称えて入り込んで、箪笥の抽斗を明けたり出したり、引解いたり、鋏を入れたり。勝手に台所を掻廻した挙句が、やれ、刺身が無いわ、飯が食われぬ、醤油が切れたわ、味噌が無いわで、皿小鉢を病人へ投打ち三昧、摺鉢の当り放題。

十二

お若の身は火消壺、蛍ばかりに消え残った、可哀に美しく凄い瞳に、自分のを直して着せた滝縞お召の寝々衣を着た男と、……不断じめのまだ残る、袱紗帯を、あろう事か、〆めるはまだしも、しゃら解けさして、四十歳宿場の遊女どの、紅入友染の長襦袢。