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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
十
――私がずッと廻りましたの。
姉さん。――はじめてお弘めに連れられました時よりか、私極りが悪かったんです。……だって、ただ、(ああそうですか御苦労様。)ってお言いなさる許は可いんですけれども、中にはねえ、(どうして。)って。……いいえ、冷評すんじゃありません、深切で聞いて下さるお家では、(私がちっとも出ませんから。)
そう言わなけりゃなりませんもの。しょう事なしに、笑って云うにゃ云いましたが、死ぬほど辛うござんしたわ。」
と指を環にしつ、引靡けつ。
十
寐起の顔にも、鬢の乱れは人に見せない身躾。他人の縺れ毛も気になるか、一つ座敷の年下など、小蔭で撫着けてやる外には、客はもとより、身体に手なんぞ、触った事の無い清葉が、この時は、しかと頸筋でも抱きたそうに、お千世の肩に手を掛けた。
「まあ、お孝さんが廻れと云って?」
「いいえ。」
と驚いたように頭を振って、
「私の姉さんが、そんな事!……病気から以来、内の世話をしている叔母さんのいいつけなんですよ。」
稲葉家のお孝が、そうした容体になってから、叔母とは云うが血筋ではない。父親は台湾とやら所在分らず、一人有ったが、それも亡くなった叔父の女房で、蒟蒻島で油揚の手曳をしていた。