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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
四十九
「失礼をいたしました。」
「は、あんた覚えておらるるかね。」
唐突に言うのがそれで、お孝はちょっと分り兼ねつつ、黄楊の横櫛を圧えたのである。
四十九
巡査は掌を向うへ扱いて、手袋を外して、片手に絞って、更めて会釈する。
「ちょっと分りますまい、じゃろうがね、………先達て、三月四日の午後十二時の頃に逢うたのですが。」
「ああ、一石橋の、あの時の。」
お孝は軽く傾いていたのが屹と見直す。
「多日でした、いや、その節は失敬じゃった。」
「いいえ、私こそ失礼を。」
「むむ、いささかその失礼でないこともなかったですね、ひゃッ、ひゃッ。」と壁に響くがごとき力ある笑声、笑うのに力が有って、あえて底意は無さそうである。
お孝は顔を洗ったばかりの、縁起棚より前へする挨拶とて、いつになく、もじもじして、
「ついね、お白酒の持越しで、酔っていたものですから、ほほほ。」
と莟ぐらいな内端な声。
「お茶をよ、誰か。」
「そういう心配をされては困る。……官服の手前もある。お宅などで余り世話になっては不可んのです。……けれども、ちょっとここを拝借します。」
「さあどうぞ、……貴官お上り遊ばしては。