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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

露霜

六十二

拝むですだよ。何も言わんで。……こ、こ、この橋板に摺付けて血を出いて願いたいども、額の厚ぼったい事だけが、我が身で分る外何にも分らん。血の出ないのが口惜いですだ。」と頭を釘に、線路の露の鉄を敲く。

学士はフイと居なくなった。銀河のあたり、星が流るる。

露霜

六十二

はッと声に出して、思わず歎息をすると、浸む涙を、両の腕。……面をひしと蔽うていた。

俥の上で――もう夜半二時過。

この辻車が、西河岸へヌッと出たと思うと、

「ああ。」

葛木は慌しく声を掛けた。

「ちょっと待て、車夫。」

「へいへい。」

「忘れものをして来た、帰ってくれないか。」

「唯今、乗した処へ。」

「ああ。」

夜延仕でも、達者な車夫で、一もん字にその引返す時は、葛木は伏せた面を挙げて、肩を聳かすごとく痩せた腕を組みながら、切に飛ぶ星を仰いだ。が、夜露に、痛いほど濡れたかして、顔の色が真蒼であった。

「可し、ここで――ここで――ここで――」

と焦って、圧えて云い云い、早や飛下りそうにしつつも駆戻る発奮にずかずかと引摺られるように町の角を曲って、やっと下立った処は、もう火の番を過ぎて、お竹蔵の前であった。