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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
」
と口々にがやがや言う。
「その二階におっかさんが。」
「何、阿母が。」
「坊やが、坊やが。放して、放して。」
と云うと、思わず圧えたのが手を放す。
「了った。」と屋根で喚く。
二人ばかりドンと出て格子戸に立ったのは、飛込もうとしたのではない。血迷うばかりの、清葉を遮って、突戻すためであった。
清葉は、向うから突戻されてよろよろと、退ると、喞筒の護謨管に裳を取られてばったり膝を、その消えそうな雪の頸へ、火の粉がばらばらとかかるので、一人が水びたしの半纏を脱いで掛けた。
この折から、ここの横町を河岸へ出る、角の電信柱の根を攀じて、そこに積んだ材木の上へ、すっくと立って顕れた、旅僧の檜木笠は、両側の屋根より高く、小山のごとき松明の炎に照されたが、群集の肩を踏まないでは、水管の通った他に、一足も踏込む隙間は無かったのである。
「筒先ウ向けろ。」
「手向の水だい。」
そこに絶望の声を放つと、二条ばかり、筒先を格子に向けた。
どどどッと鳴る音と共に、軒の瓦斯は、人魂のごとく屋根へ飛ぶ。格子が前へどんと倒れる。地獄の口の開いた中から、水と炎の渦巻を浴びて、黒煙を空脛に踏んで火の粉を泳いで、背には清葉の継しい母を、胸には捨てた(坊や。