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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

おなじく妻

二十三

」

「そりゃ何です、人が怪みはしまいかと思ったからです。」

「ははあ、人が怪むという事を。それじゃ……御承知であったですな。」

「ものが、ものだからですから。」と大にまごつく。

「何も貝類を川に棄つるに、世間を憚る事は無いように思われる……ですね。」

「ですが、……また……貴下のような。」

「すると、本職がです、警官がそれを怪む事は御承知の上ですか。」

「僕には分らん。」

「本職はです、貴下のために御答弁の拙劣なのを惜むです。」

「……勝手にしたまえ。どうしようてんだ。」

「……紳士のために望まない事ですな。」

「煩い、勝手になさいよ。」

「為にならんぞ!」

「旦那。」

と暗がりに媚かしく婀娜な声。ほんのりと一重桜、カランと吾妻下駄を、赤電車の過ぎた線路に遠慮なく響かすと、はっと留楠木の薫して、朧を透した霞の姿、夜目にも褄を咲せたのは、稲葉家のお孝であった。

――一昨年の春である――

おなじく妻

二十三

「もし、ちょいと。」

右側の欄干際に引添った二人の傍へ、すらりと寄ったが、お端折の褄を取りたそうに、左を投げた袖ぐるみ、手をふらふらと微酔で。

「旦那、その方のお検べはまだ済みませんか。