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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
二十四
ばっと鳴って、どどどんと水の音。
両手を縋って、肩を細く乗出しながら、
「河童や、悪戯をおしでないよ。」
向う岸に鷺が居て、雲はやや白くなった。
「失礼しました。」
名刺を返して、
「悪しからず……お名前だけ記憶します。」
と、鉛筆で手帳へその名を。……振向くお孝に見向って、
「お前の名も?……何と云うかい。」
「おなじく妻、とかいて頂戴。」
二十四
「実に難有かった、姉さん。」
巡査の靴音が橋の上に留んで、背後向のその黒い影が、探偵小説の挿画のように、保険会社の鉄造りの門の下に、寂しく描出された時、歎息とともに葛木はそう云った。
「お庇さまで助かったんだよ。」
「恐入ります、御慇懃で。」
並んで彳んで見送っていたのが、微笑んで見向いてお孝。
「でも、驚いたでしょう、貴方。」
「驚いたって、はじめは串戯だと思ったし、半頃じゃ、わざと意地悪くするんだと思って癪にも障りましたがね、段々真面目なのに気が付いたんです。確に嬰児でも沈めたと思ったらしい。先方が職務に忠実なんだと気がつくほど、一度は警察か、と覚悟をしてね――まあ、しかしそれでも活きた証拠に、同じものの放生会があって、僕が放生会に逢ったようだ。