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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
サの字千鳥
三十三
「御心配にゃ及びません。見てやりますとも。」
「では、お爺さん、お大事になさいまし。お気をつけなさいましよ。」
「はいはい、あなた方の御志、孫も幸福。それが嬉しゅうござります。」
とッちて、着きも無いことを云うのを、しんみりと聞いて、清葉はなぜか、ほろりとしたが、一石橋の方へ身を開いて向返った処で、衣紋をつくって、ちょっと、手招く。
鉄棒小脇に掻込みたるが一人、心得てつかつかと寄った。
「ええ……え、腕車に、成程。ええ可うがす、可うがすとも。そりゃ仔細有りゃしません。何、私たちに。串戯じゃありません。姉さん、串……、そうですかい、済まねえな。」
そのまま見送って小戻りする。この徒も清葉が戻路の方を違えて、なぞえに一石橋の方へ廻ったのは知らずにいたろう。
サの字千鳥
三十三
「何だか、唐突に謎見たような事だけれど、それが今夜の事の抑々というのだから、恥辱も忘れて話すんだがね……
上野から日本橋へ来る電車――確か大門行だったと思う――品川行にした処で、あの往復切符、勿論乗換札じゃないのだよ。……その往か復か、どっちにしろ切符の表に、片仮名の(サ)の字が一字、何か書いてあると思いますか。