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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
――暗号で出て来る妹と手を取って、肩を抱合って、幾度泣いたか知れません。……姉は恥かしいから逢わぬと歎く。女の身体の、切刻まれる処が見たいか、と叱るんだね。
その弟の身になると、姉は隅田川の霞の中に、花に包まれた欄干に立って、私を守っているようでもあるし、紅蓮大紅蓮という雪の地獄に、俎に縛られて、胸に庖丁を擬てられながら、救を求めて悶えるとも見える。……
死ものぐるいに勉強をしたよ。
大学へ入ると言う、その祝いだ、と云って、私を村田屋へ連出したのは、姉の旦那だ。
その時清葉を見ました。
心の迷いか、済まん事だが、脊恰好、立居の容子が姉に肖然。
この方は手形さえあれば、曲りなりにも関所が通られると思うと、五度に一度、それさえ半年の間なんだ、……小遣を貯めるんだからね。……また芸者の身になって見りゃ、迷惑な事は夥多しい。」
お孝は黙って頭を掉った。
「姉の方は、天か地か、まるで幽明処を隔つ、遠い昔のものがたりの中に住むか、目近に姿ばかりの錦絵を見るようだろう。同じ、娑婆に、おなじ時刻に、同じ檜物町の土地に、ただ町を離れて、本郷の学校の門と、格子戸を隔てただけで住んでいる筈の清葉さえ、夢に見ても夢でさえ、遠出だったり、用達しだったり、病気だったりして逢えないんだものね。