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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

伊志田屋敷で無気味な映画事件があった翌々日の夕方のことである。

煙の中の明智の頭には、今、あの古城のような赤煉瓦の建物が浮かんでいた。その奇妙な建物を背景にして、女のように美しい青年の顔が、二重写しになって頬笑んでいた。

その前日、名探偵は美青年伊志田一郎の突然の訪問を受けたのであった。そして、古城の中に起こった奇妙な出来事と、一郎の恐ろしい夢の話を聞いたのであった。

明智はこの美青年に不思議な興味を感じていた。その顔が異様に美しいためばかりではない。今の世に珍しいその性格に惹きつけられたのだ。彼は肉体から遊離した心霊の存在を語った。そして呪詛とか前兆とかいうものを、心の底から信じているようにみえた。

「僕は怖いのです。誰かにすがりたいのです。父は唯物論者ですから、僕のいうことなど取り上げてくれません。僕はふと先生のことを思い出したのです。これは犯罪ではないかもしれません。しかし、少なくとも僕の家族の生命に関する事件なのです。何かしら恐ろしいことが起こるに違いないのです」

美青年は応接室のアーム・チェアに腰を浮かすようにして、物に憑かれた眼で明智を見つめながら、真剣な調子で名探偵の判断を乞うた。