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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

「例えば綾子さんを犯人に仕立て上げたやり口一つを見ても、あいつの気違いじみた頭の働き方がよくわかるのですよ。心理的にまったく不可能なことを、どうしてもそうと信じないではいられぬように、種々さまざまの証拠を作り上げて行くんですからね。常識はずれの、悪魔の知恵とでもいうのでしょうね。警察はもちろん、弟の一郎君までが、綾子さんを犯人だと思っていた。血を分けた姉弟にそういう考えを持たせるというのはよくよくのことですよ。のっぴきならぬ証拠が揃いすぎるほど揃っていたのです。そして最後にはあの奇妙な家出という大芝居を打ってみせたのですからね。

しかし、僕は最初から、あの人を真犯人とは考えなかった。それは一つは、あのうら若い女性が実の弟を傷つけたり、実の妹を惨殺したりすることは非常に不自然だという、常識判断に基づくのですが、もう一つは、ちょっとしたごくつまらないことから、犯人のトリックを見破ったのです。それはね、あのヘリオトロープの匂いですよ。

一郎君はよく覚えているだろう。僕が覆面の怪物を物置き部屋に追いつめて、ピストルで撃たれた時、非常に強いヘリオトロープの匂いがしたということを。