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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

そのひまに、君の命を奪おうと思えば、いつだって目的をとげることができたはずだからね。

犯人は君をおもちゃにしていたのだろうか。一と思いに殺すのはもったいないので、何度でもひどい目にあわせてやれというつもりだったのだろうか」

明智はそこで口を切って、じっと一郎青年の顔を見つめた。一郎は無表情な顔で、別に言葉をはさもうとはしなかった。

「探偵という仕事は、どんなに不可能に見えることでも、一応疑ってみなければならない。僕はこの犯人の変なやり口に興味を感じた。それを底まで研究してみようと思った。

僕はかつて、アメリカのある非常に聡明な殺人犯人の話を読んだことがある。その犯人は嫌疑をまぬがれるために、自分自身をピストルで撃って、重傷を負ったのだ。そして、ある名探偵に、みずから進んで事件の捜査を依頼した。つまり彼は逆手を打ったのだ。危険のまっ唯中に身をさらすことが、かえって安全だという論理を知っていたのだ。そして、名探偵に対して知恵くらべを挑んだのだ。ある種の性格にとって、こういう知識的なスリルは、何にもまして魅力があるものだからね。

で、そのアメリカの犯罪事件では、さすがの名探偵も、永いあいだ犯人の捨て身の戦法に欺かれていたのだが、しかし、結局勝負はついた。