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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

明智は、急いで身支度をすると、助手の小林少年を呼んで、自動車を命じさせるのであった。

R町の探偵事務所から、K町の伊志田屋敷までは、自動車で十分とかからぬ近距離であった。

伊志田屋敷の苔むした煉瓦塀の門前で車を降りて、玄関に駈けつけ、呼鈴を押すと、二十歳あまりの学生服を着た青年が、ドアをひらいてノッソリと顔を出した。何事も知らぬ様子である。

明智は、その青年がこの家の書生であることを確かめた上、名を名乗って、一郎青年に会いたいと告げると、書生はそのまま奥へはいっていったが、間もなく顔色を変えて飛び出してきた。

「た、大変です。一郎さんは大怪我をして倒れていらっしゃいます。早く、早くきてください」

書生は明智の腕をとらんばかりにして、奥へ案内する。主人をはじめ家族が不在なので、初対面とはいえ、折よく来合わせた探偵にすがるほか分別もないのであろう。

「君はうちにいて、その騒ぎを少しも知らなかったのですか」

廊下を急ぎながら、明智が訊ねると、書生は申しわけないという表情で、

「実はちょっと外出していましたので。いま帰ったところなのです。何がなんだかさっぱりわけがわかりません」