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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
美しき嫌疑者
美しき嫌疑者
一郎青年は、犯人はこの家の中にいるかもしれないという、恐ろしい疑いを明智に漏らした。明智もまたひそかにそういうことを想像しないではなかった。この奇怪な邸内に住む変り者の富豪の一族には、何かしら無気味な秘密があった。家族のものが、お互い同士で疑い合っているような、異様に気づまりな空気がただよっていた。
まさか綾子が実の弟の一郎を傷つけた殺人鬼だとは考えられない。だが、男さえ薄気味わるく思う円塔に、深夜ただ一人登って、あんな妙なことをしていたのをみると、彼女は何かしら事件に関係を持っているらしく思われる。もしかしたら共犯者ではないのか。あの黒覆面の怪人物の相棒ではないのか。
明智は彼女が自分の寝室へはいるのを見届けた上、その足で二階の主人伊志田氏の部屋を訪ねた。相手は若い娘さんなのだから、明智自身が直接詰問するよりは、お父さんに話して、おだやかに訊ねてもらう方が穏当でもあり、有効でもあると考えたからだ。
主人はまだ起きていて、パジャマの上にナイト・ガウンを羽織って、明智を書斎に通した。一郎が怪物のために傷つけられた、あの書斎である。伊志田氏はそこを平気で使用しているのだ。