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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
明智が綾子の異様な行動を詳しく報告すると、さすがに伊志田氏も顔色を変えて、すぐ呼び鈴を押して、書生に綾子を呼んでくるようにと命じた。
しばらくすると、ドアが静かにひらいて、あの白い洋装のままの綾子がはいってきた。あでやかな顔が少しひきしまって、心持ち青ざめているほかには、少しも取り乱した様子がない。この夜ふけになんの用事かと、けげんらしい表情さえ浮かべている。明智はそれを見て、まだうら若い綾子の名優ぶりに感嘆しないではいられなかった。
彼女はほのかなヘリオトロープの匂いを発散させながら、父のデスクのそばに近づくと、そこに立っている有本医師に軽く頭を下げて会釈した。伊志田氏と一郎青年のほかは、有本医師が明智小五郎であることを、誰もまだ知らなかったのだ。
「そこへお掛け。お前いま塔の中へはいっていたそうじゃないか。この夜ふけに、あんな所でいったい何をしていたんだね」
伊志田氏は、いきなりそれを訊ねた。彼は娘の行動を深くも疑わず、わけもなくその理由を説明して、明智探偵の疑念をはらしてくれるものと、信じこんでいる様子であった。
綾子はそれを聞くと、チラッと有本医師を眺めた。