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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

お前はじき怨霊などというが、そんなものがあるはずはない。やはりあいつも人間なのだ。ただ少しわる賢い人間というだけのことだ。人間を人間の力で防げぬはずはない。

わしの気持ではね、一郎、あいつがもう一度現われるのを待っているのだよ。そして、今度こそ引っ捉えて眼に物見せてくれようと、それを楽しみに思っているくらいだ。わしは君代の敵が討ちたいのだよ」

伊志田氏は何か心中深く決するところあるもののように、強い調子でいうのであった。

「しかし僕は……」

一郎は何か言いかけて、突然ギョッとだまり込んでしまった。そして、父と子とは、刺すような眼でお互いの顔を見つめあった。

それは銃声であった。邸内のどこかから、ピストルらしい銃声が聞こえてきたのであった。

「下のようですね」

「ウン、見てきてごらん」

短い言葉をかわして、一郎は飛ぶように部屋を出て行った。

階段を駈け降りて、廊下へ出ると、向こうから、一人の書生が、顔色を変えて走ってきた。

「鞠子さんが……」

「エッ、鞠子が? 撃たれたのか」

「部屋に倒れていらっしゃるのです」

鞠子の勉強部屋は姉の綾子の部屋の隣にあった。一郎は先ずその綾子の部屋のドアをひらいてみたが、彼女の姿は見えなかった。