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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「深夜の市長」が自らこの言葉を口にした! このルンペン老人の綽名は、やはり無意味ではなかったのだ。事情はよく分らないながら、彼と本物の市長との間には、とにかく一脈の縁の水路が続いていたのだった。――僕は跪いて「市長」の手を取ろうとすると、
「さあ行こう」
と、速水は僕の腕を抑えて引張った。
「でも、これじゃ『深夜の市長』を見殺しにするようじゃないかネ」
「仕方がない、後はお照に委せるんだ。躊躇している場合ではない」
後髪を引かれるような想いで、僕は速水と連れ立って、高塔を下りていった。階段を一つ下りるごとに、ズキンズキンと腰に痛みが響いた。しかし足を停めることは出来なかった。
「深夜の市長」が生命を賭けたT市の黄金の鍵のことを思えば……。
事務机の下を抜け、丸の内十三号館の窓を明けて、外へ出ようとすると、いきなり鼻先へパッと眩しい光線が爆発した。ハッと思って呼吸を停めたところへ、窓下から、
「試補さん、さあ私の手にお掴りなさい」
という声、よく見ると何のことだ。先刻この窓を攀じのぼるとき、お尻を持ち上げてもらった巡邏の警官だった。彼は今まで辛棒づよく、この窓下に待っていたものらしい。