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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

其ノ屍体ハ油倉庫ノ中ニ投ゲ入レラレ、放火サレタカラ灰ニナリマシタ。兄サンガ何故殺害サレタカ分リマセンガ、其ノ殺害ヲ一番早ク云イ当テタノハ動坂三郎氏デス。動坂氏ハ其ノ翌朝、ツマリ三十日朝、貴女ノ妹サンノ千代子サンニ、ウッカリ夫レヲ話シタノデス。兄サンヲ殺害シロト命令シタノハ動坂三郎ニ違イアリマセン。隣家ノ男ヨリ――

(隣家ノ男ヨリ)と一旦書いてはみたが、どうも卑怯なような気がしたので、それを消して、「浅間新十郎」と堂々、署名をした。それを書き終えると、頁を千切って、小さく折り畳んだ。そして枕許に抛りだしてあったマスミのハンドバッグを開けてその中へ入れて口を閉じた。これでいい。マスミが読んだら、これ以上、仇敵の男と枕を並べるような間違ったことは繰りかえすまいと考えた。――僕はこれで心の重荷を下すことができた。そしてホッと溜息をついた。

「……ちょいと、浅間君。……」

ハッと愕いて、畳の上から飛び上ると、後には街の科学者速水輪太郎が、疲れ切ったという恰好でボンヤリ突立っていた。

「随分探したが、T市の黄金の鍵は何処にも見当らないんだ……」

黄金の鍵? そうだ、自分はマスミに会うために、この家へやって来たのではない。