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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
僕は腹匍いになった。そして、右腕をソロソロと穴の中に差入れていった。この行動はすべて真暗の中で行われた。懐中電灯などを点すと、万一、誰かに見咎められるかもしれない虞れがあったからだ。腋の下まで充分に腕を差込んで置いて、それから僕は手探りに、左の方の壁を撫でまわした。それは漆喰で固めてあるらしく、滑々した表面を持っていたが、果然指先に、壁の面から飛びだした固いものを探りあてた。それは小さいスイッチであった。
金属の球のついたスイッチ・ヘッドを指先で摘んだ僕は、遉に烈しい動悸を感ぜずにはいられなかった。……ここで勇気を失ってはなんにもならない! 僕は思いきって、その丸いスイッチ・ヘッドをパチンと上に倒した。とたんに地下室の何処かでウウーンと低く電動機の起動する呻り声が聞えてきた。僕はそこで穴から腕を抜いた。そしてヨロヨロする脚を踏み締めて立ち上った。
鼻先にある第三番の窓硝子が、ググーッと音をたてて、静かに静かに上に明いてゆくのが、闇に慣れたわが眼に、それと映った。僕は頃合を見計らって、ちょっと後方に退ると、窓下の空気抜きに片足をかけるが早いか、やッと身を躍らせて雨垂れ落ちに飛びついた。