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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

――これは不思議!

と、床の中でハッと顔色をかえた瞬間、障子の傍へ衣ずれの音も高く現われたのは若い女の立姿、――

いや、そのときくらい驚いたことはない。いつの間にやら自分の家の中に、若い女が入りこんでいたのである。昨夜はたしか各室――というほどのものでもないが、ちゃんと見廻り、人気のないのを見定めた上、床についたのだったが……。

「おや、もう目が覚めたの。もっと寝ていなくていいのウ」

ニヤニヤと笑いながら、こっちへ向いた女は、誰あろう虎御前こと丘田お照だったのには、二重に驚いた。

――やったな。――

と思って敷居越しに、勝手元を覗きこむと、揚げ板の上には、長火鉢だのチャブ台だの古雑誌だのギターまでが、物々しく積み重なっている。完全に昨夜のままの光景である。

するとこいつは妙な理窟になって来た。

締りのあるところからは絶対に入れない上に、勝手元の揚げ板の下からも絶対に入った形跡がないことになる。この入口のない家の中へ、お照は何処から潜りこんできたのだろう。こんな奇怪なことはなかった。奇怪だと思うと、明るく障子を照らしている太陽の光が、かえってたいへん恐ろしく感じられたのだった。