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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页
「ねえ、りゅうちゃん、たら……」
「ハナ子ッ。そこ離せ!」思わず妙なことを呶鳴ってしまったので、僕はプーッとふきだした。「……しょうがねえ。じゃ今夜はお前の説に服従して、素直に帰るとしよう。……」
「それがいいわ。これで、あたし、お父様に顔が立ちますわ」
警官は行き過ぎながら、なおもこっちを振りかえって見ている。
「……じゃ、歩くのは面倒だ。円タクを奢ろう。オイ、円タク……。幽霊坂のところまで、三貫で行け」
通りすがりの円タクが「旦那、三貫じゃあ」というのを抑えるようにして、
「いつも三貫に決めてあるんだ。ものの、五分間もかからないじゃないか。何だい、あまり慾張るない」
じゃ、行きましょう――と、円タクの助手は扉をあけてくれた。僕はまず少女に先に乗れと合図し、彼女がステップに足をかけたとき、後からお尻を押してやった。そして自分も車内に飛びこんだ。――警官は棒のように突立って見送っていた。
車内では、僕も少女も、まるで黙っていた。僕は少女の身体から発する恥かしいような、香気に噎せびながらこの思いがけない連れを、これからどう取扱ったものかと思案をめぐらせた。