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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

「新青年」博文館、1936(昭和11)年2月~6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 页

青空文庫

幽霊坂の下で、僕たちは車をかえした。二人は人通りのない真暗な道路の上に残された。闇の中に少女は吐く息さえ停めて、ジッとしていた。

「お嬢さん、もうこの辺でお別れいたしますか」

「ええ、ありがとうございました。お蔭で助かりましたわ。……貴方のお家、こんな淋しいところなんですの」

「いえ、飛んでもない。僕の家は、まるで方向違いですよ。もっとも昔この辺に下宿していたことがありましたのでね、咄嗟に思いついてこんなところへ車を命じたのです」

「まあ、そうなの。……どこかこの辺にホテルか何かございませんでしょうか」

「えッ、ホテルですか?」僕は、ハテナやっぱりそうかナと思った。

「……あたし、いま困っていますのよ。助けていただきたいの。簡単に取引させていただきたいのですけれど……」

「ああッ、分りました。……」

僕はそれ以上に少女が云いだそうとする言葉を恐れた。これは一面に於て、素晴らしい幸運が転がってきたとも云える。しかしそれを幸運として受取ったものかどうか。とにかく僕は少女の腕を執って、歩きだした。苺園ホテルというのが、この坂を登って向うへ下ったところにある筈だったから。